脊髄
聖マリアンナ医科大学では、脊髄疾患に対する専門的な診断と治療を提供しており、最新の技術を活用した低侵襲な治療も積極的に行っています。脊髄外科学会技術指導医・認定医、脊椎脊髄専門医が、患者様一人ひとりに最適な治療法を提案し、安全かつ効果的な治療を目指します。
脊髄疾患に関するご相談や診察をご希望の方は、お気軽に当院の脳神経外科外来までお問い合わせください。
頸椎疾患
頸椎症 加齢や姿勢の影響で頸椎の変性が進み、神経の圧迫を引き起こす疾患です。首の痛み、肩こり、手のしびれが主な症状です。
Fig.1 頚部脊柱管狭窄症:筋層構築的頚椎椎弓形成術
頸椎の椎間板が変性し、神経を圧迫することで、首の痛みや腕のしびれを引き起こす疾患です。
Fig.2 頚椎椎間板ヘルニア:頚椎前方除圧固定術
後縦靱帯が骨化することで脊髄を圧迫し、手足のしびれや歩行障害を引き起こす疾患です。
- 診断:
- レントゲン、MRI、CTを用いて骨や神経の圧迫状態を評価します。
- 治療:
- 保存療法(薬物療法、リハビリ)で改善が無い場合や進行例では手術を行います。
脳神経外科では、全てマイクロサージェリー技術を用いてこれらの治療を行います。 - 後方手術:
- 筋層を全て温存する「筋層構築的椎弓形成術」((Kim & Murata, J Neurosurg, 2007)を基本術式としています。顕微鏡または拡大鏡を用いたマイクロサージェリーを後方手術に適応することによってはじめて可能となる手術です。 (Fig.1)
- 前方手術:
- 前報からの圧迫因子(骨棘や椎間板、骨化靱帯)で脊髄が強く押されているときに行います.圧迫成分を摘出したのち,椎間または椎体ケージを挿入して,頸椎のならびをよくして固定します.このチタンケージの中に自家骨を充填し,自分の骨で癒合させるようにします.この手術もマイクロサージェリー技術を用いて行います。(Fig.2, Fig.4)
- 選択的前方除圧術:
- 神経根や脊髄の一部が圧迫をうけている場合に,選択的にその箇所のみを除圧する手術です.椎間板や骨構造は温存されるため,ケージや自家骨などの補填の必要はありません.高度なマイクロサージェリー技術で初めて可能となる術式です。
Fig.3 頚椎椎間板ヘルニア:選択的前方除圧術
Fig.4 頚椎症性脊髄症(後弯):頚椎椎体切除・再建術
腰椎疾患
加齢や骨の変性により脊柱管が狭くなり、神経を圧迫することで腰痛や歩行障害が起こる疾患です。
Fig.5 腰部脊柱管狭窄症:筋層温存椎弓形成術
腰椎椎間板ヘルニア椎間板の変性により髄核が飛び出し、神経を圧迫することで腰痛や足のしびれを引き起こす疾患です。
- 診断:
- MRIやCTで脊柱管の狭窄を確認します。
- 治療:
- 保存療法(内服)、進行例では手術(脊柱管拡大術やヘルニア摘出術)を行います。
多椎間の場合には、腰椎疾患においても筋層を全て温存する「筋層温存椎弓形成術」を基本術式としています(Fig.5)。顕微鏡または拡大鏡を用いたマイクロサージェリーを適応することによってはじめて可能となる手術です。
脊髄腫瘍
脊髄の内部(髄内)に発生する腫瘍で、主に上衣腫(Fig.6)、星細胞腫、血管芽腫などが含まれます。これらの腫瘍は脊髄内に発生し、腫瘍の成長に伴って脊髄を圧迫し、痛みや運動機能の低下、感覚障害を引き起こします。
Fig.6 脊髄髄内腫瘍(上衣腫)
Fig.7 脊髄髄内腫瘍(上衣下腫)
脊髄外で硬膜の内側に発生する腫瘍で、主に神経鞘腫や髄膜腫が含まれます。これらの腫瘍は一般的に良性ですが、大きくなると脊髄を圧迫し、痛みやしびれ、筋力低下などの症状を引き起こします。
Fig.8 頚椎ダンベル腫瘍の二期的全摘出
硬膜外に発生する腫瘍で、転移性腫瘍(がんの転移によるもの)が多くを占めます。腫瘍の増大による脊髄圧迫が生じると、激しい痛みや運動障害が発生することがあります。
- 診断:
- MRI(造影剤使用)や造影CT、PET検査、脊髄造影検査を行い、腫瘍の性状と大きさを評価します。
- 治療:
- 原則として手術で摘出します。当科では脊髄脊椎手術のうち約30%が脊髄腫瘍の手術です。(Fig.6, Fig.7, Fig.8)
脊髄腫瘍は頭蓋内手術と同様、精緻なマイクロサージェリー技術が必須となります。
とくに髄内腫瘍や硬膜内外にわたるダンベル腫瘍では、脳神経外科の中でも最も精緻なマイクロサージェリー技術が要求とされます。決して容易なものではありませんが、神経機能を大きく損なわずに摘出が可能となっています。
悪性髄内腫瘍の場合は脊髄機能の問題だけではなく直接生命にかかわります.その悪性度により手術に続いて,化学療法,放射線治療などを行い,完治を目指します.
髄内腫瘍によって生じた症状の回復はきわめて困難といえます.良い神経・脊髄機能を保つためには,早めの治療が望ましいとされています.治療の困難さと頻度の少なさのため脊髄腫瘍を当院のように多数例に治療する病院は日本国内でもわずかです。脊髄腫瘍や摘出困難と診断された例がありましたら,どうぞご相談ください.
頭蓋頚椎移行部疾患
環軸椎亜脱臼は、第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)の関節が不安定になり、頸髄を圧迫する疾患です。先天性異常、関節リウマチ、外傷などが原因となります。症状としては、頸部痛、腕や脚のしびれ、歩行障害などが現れることがあります。
Fig.9 頭蓋底陥入症
頭蓋底陥入症は、頭蓋底が異常に沈み込み、脳幹や頸髄を圧迫する疾患です。先天性の異常や骨疾患(くる病、Paget病など)が原因となることがあります。症状として、強い頭痛、嚥下障害、四肢のしびれ・麻痺が見られます。(Fig.9)
- 診断:
- X線、CT、MRIを用いて骨の異常や神経の圧迫の程度を評価します。
- 治療:
- 軽度の症例は装具療法(頸椎カラー)で経過を観察します。神経症状が進行する場合は、環軸椎固定術や後頭骨ー頚椎固定術を行います。前方からの圧迫が強いときは経口減圧術を行います。(Fig.9, Fig.10, Fig.11)
- 先進的治療:
- ナビゲーション支援手術や3Dプリンタを活用した患者個別のインプラントを用いた治療が進められています。
Fig.10 経口的歯突起切除術
Fig.11 頭蓋底陥入症
歯突起骨折は、第2頸椎の歯突起(dens)が骨折する外傷性疾患です。高齢者の転倒や交通事故などが主な原因です。症状としては、強い首の痛み、可動制限、神経症状(手足のしびれや筋力低下)が現れることがあります。
- 診断:
- X線やCTスキャンで骨折の種類と安定性を評価します。
- 治療:
- 安定した骨折では頸椎カラーで保存療法を行います。不安定な骨折や癒合が困難な場合は、スクリュー固定術や後方固定術を行います。
- 先進的治療:
- 最小侵襲手術(MIS)によるスクリュー固定術が開発され、より低侵襲での治療が可能になっています。
キアリ奇形は、小脳の一部(小脳扁桃)が通常の位置よりも下方へと脱出し、脊柱管に入り込むことで延髄や上位頸髄を圧迫する先天性疾患です。これにより、脳脊髄液の流れが障害されることがあり、頭痛、めまい、嚥下障害、手足のしびれ、歩行障害などの症状が現れます。
Fig.12 キアリ奇形に伴う脊髄空洞症
- 診断:
- MRIを用いて、小脳扁桃の位置と脊髄の圧迫の程度を評価します。さらに、脳脊髄液の流れを観察するシネMRI検査を行うこともあります。場合によってはCT検査を併用し、頭蓋骨の形状を詳しく調べます。
- 治療:
- 大後頭孔減圧術 (Fig.12)
脳が落ち込み、狭くなっている部分を拡げる手術です。極端に小脳扁桃が下位へ落ち込んでいるときは、落ち込んだ部分を電気焼灼除去することがあります。
通常、狭くなっている部分を拡げ、拘扼している膜(硬膜)を広く形成するだけで、脳をいじらなくても、髄液の流れがよくなり、脊髄空洞症は改善し、脳幹圧迫もとれます。
しかし、大後頭孔減圧術で脊髄空洞症が改善しないときは後述する空洞シャント術を行います。
Fig.13 脊髄空洞症(特発性):空洞ーくも膜下腔シャント
聖マリアンナ医科大学 脳神経外科では、脊髄外科指導医・専門医による的確な診断と治療を提供しております。最新の神経モニタリング技術を活用し、低侵襲な治療を心がけています。ご相談や診療をご希望の方は、お気軽に当院までお問い合わせください。
脊髄空洞症
脊髄空洞症は、脊髄の内部に液体が異常に溜まり、空洞が形成される疾患です。この空洞が脊髄を内部から圧迫し、痛み、しびれ、筋力低下、温度感覚の異常などの神経症状を引き起こします。
原因:
脊髄に空洞のできる原因はたくさんあります。脊髄の炎症、腫瘍(腫瘍の場合は腫瘍嚢胞と言います)、脊髄の梗塞や出血などの血管障害、外傷、そしていろいろな”奇形”があります。その中でも、生まれつき小脳の一部が脊柱管に落ち込んでいるキアリ奇形が代表的なものです。しかし原因の特定できないものもあります。
髄液の多くは脳表周囲のくも膜顆粒とよばれる場所で吸収されます。
いずれにしても、脊髄空洞症は、頭蓋内と頭蓋外の間のどこかに閉塞起点があって、髄液移行がうまくいかず、脊髄内に髄液が溜まっていくものです。
- キアリ奇形 脊髄空洞症 (Fig.12)
- 癒着性くも膜炎から生ずる脊髄空洞症癒着性くも膜炎の原因: 外傷、出血、感染、術後 その他( )
- 腫瘍から生ずる脊髄空洞症(腫瘍嚢胞)
- 特発性(原因があきらかでないもの) (Fig.13)
脊髄空洞症の症状
- 腕から手にかけての痛みやしびれなどの不快感で発症する事が多い。ジャケット型の感覚障害が出現します。一般に温・痛覚は発症初期より傷害されることが多く、湯加減を見るときなどに感覚の異常に気づくことが多いようです。
- キアリ奇形では、せき込んだ時やトイレでいきんだ時など、腹圧がかかる動作に伴い後頭部が痛みます(髄液移行がうまくいかない)。
- 病状が進行すると腕から手にかけての著明な筋萎縮を伴う筋力の低下を来します。
- 発汗障害や排尿障害など自律神経障害などを伴うこともあります。
- 小児期に発症した場合脊椎側弯症を合併する症例が多い (小児側弯症の8%が脊髄空洞症)。学校の検診で側弯症を指摘され、その精査中に発見されることも少なくありません。
脳幹の圧迫症状
- 空洞が脳幹部に伸びると「睡眠時無呼吸症候群」を呈することがあります。
- 水頭症(脳の側の髄液が抜けなくなる)を併発すると、認知症や意識障害を来します。
いつ治療したらよいのか。
軽微な脊髄空洞症であれば、中心管とよばれる生理的な管腔のなごり(中心管遺残)の場合がありますので経過をみます。しかし、手足のしびれや痛み、筋力低下をきたす場合など、なんらかの症状を呈した場合は早めの治療をお勧めしています。
なぜなら、空洞症で生じた症状は改善しにくいからです(脊髄の細胞は一生に一回きりのため、空洞に置き換わった神経細胞は再生しないからです)。そのため、空洞症がみられるときには症状が軽微でも、治療を行う方が得策といえます。
- 1)大後頭孔減圧術 (Fig.12)
キアリ奇形に伴う脊髄空洞症のときに行います。脳が落ち込み、狭くなっている部分を拡げる手術です。極端に小脳扁桃が下位へ落ち込んでいるときは、落ち込んだ部分を電気焼灼除去することがあります。
通常、狭くなっている部分を拡げ、拘扼している膜(硬膜)を広く形成するだけで、脳をいじらなくても、髄液の流れがよくなり、脊髄空洞症は改善し、脳幹圧迫もとれます。 -
2)空洞—くも膜下腔シャント術 (Fig.13)
キアリ奇形でない場合や狭くなっている部分を開放しても、髄液の交通がうまくいかない、または、いったん脊髄内へ入った髄液が抜けていかない(空洞形成が改善しない)という場合があります。
この場合は脊髄空洞内に細いチューブをいれ、脊髄外へ髄液を逃がす手術を行うことがあります。
脊髄動静脈瘻
脊髄動静脈瘻(spinal arteriovenous fistula: spAVF)は、脊髄の動脈と静脈が異常に直接つながることで、血流が逆流し、脊髄に慢性的な虚血やうっ血を引き起こす疾患です (Fig.14)。この病態は進行性で、治療が遅れると歩行障害や排尿障害、下肢の筋力低下などの深刻な神経症状を引き起こす可能性があります。また逆流した血管から出血を来し、脊髄出血やくも膜下出血をきたすことがあります。
- MRI:
- 脊髄の浮腫や血管の異常を確認するために使用されます。
- 造影CT:
- 3DCTAにて異常血管の流入や位置を確認します。
- 脊髄血管造影:
- 診断の確定には、血管造影検査を行い、異常な動静脈の吻合部位を特定します。
- 動静脈瘻離断術:
- 動脈と静脈の吻合部位(動静脈瘻)を正確に同定することが治療の第一歩です。これを成し遂げるためには,十分な技術を持った血管内治療医が必要となります。脊髄動静脈瘻の治療は、脊髄外科専門医(指導医)と血管内治療専門医(指導医)の協働が必須となります。
- 血管内治療(塞栓術):
- カテーテルを用いて異常な血管を塞ぐ方法で、低侵襲な治療法として広く用いられています。
外科的手術: 硬膜動静脈瘻の場合や塞栓術が困難な場合、再発した場合には、外科的に異常血管を結紮(しばる)する手術が行われます。
Fig.14 脊髄動静脈瘻
聖マリアンナ医科大学 脳神経外科では、脊髄外科指導医・専門医および脳血管内治療指導医・専門医による的確な診断と治療を提供しております。最新の技術を活用し、低侵襲な治療を心がけています。ご相談や診療をご希望の方は、お気軽に当院までお問い合わせください
脊髄先天奇形
脊髄髄膜瘤は、先天性疾患の一つで、胎生期に神経管が正常に閉鎖しないことで脊髄の一部が背骨の外へ露出し、脊髄膜とともに膨らんでしまう疾患です。この状態では脊髄が適切に保護されず、神経損傷が発生しやすくなります。多くの場合、キアリ奇形II型を伴い、脳脊髄液の流れが障害されることで水頭症を引き起こすことがあります。
- 下肢の運動・感覚障害
- 排尿・排便機能の障害
- 水頭症を合併する場合、頭囲の拡大や意識障害
- キアリ奇形を合併する場合、嚥下障害や呼吸障害
- 胎児超音波検査:
- 妊娠中に胎児の背骨の異常を検出することができます。
- MRI・CT:
- 出生後に脊髄の状態や合併症の有無を詳しく評価します。
- 外科的修復術:
- 出生後早期に、脊髄を適切な位置に戻し、欠損部を閉鎖する手術を行います。
- シャント手術:
- 水頭症を合併している場合、脳脊髄液の排出を助けるためのシャントを設置します。
- 胎児外科手術:
- 出生前に子宮内で手術を行うことで、脊髄へのダメージを軽減し、神経機能を改善する試みが進められています。
脊髄脂肪腫は、脊髄内または脊髄の周囲に脂肪組織が異常に増殖する先天性疾患です。脂肪腫によって脊髄が圧迫されたり、脊髄が係留され、牽引されることで脊髄症を生じます。多くの場合、脊髄髄膜瘤と関連しており、胎生期の神経管の形成異常によって発生します。
Fig.15 脊髄先天奇形 脊髄脂肪腫
- 下肢の筋力低下やしびれ
- 歩行障害
- 脊柱変形(側弯症)
- 排尿・排便機能障害
- MRI:
- 脂肪組織の位置や大きさを確認し、脊髄との関係を詳細に評価します。
- CTスキャン:
- 骨の異常を調べるために行われます。
- 経過観察:
- 症状が軽い場合は、定期的なMRI検査を行いながら経過観察を実施します。
- 外科的手術
- 神経症状が進行している場合、脂肪組織の一部を除去する手術(脂肪腫切除術)を行いますが、摘出が主な目的というより、脊髄係留を解除するのが主な目的です。
- リハビリテーション
- 運動機能を維持・向上させるためのリハビリが重要となります。
聖マリアンナ医科大学 脳神経外科では、脊髄外科指導医・専門医および小児脳神経外科専門医による的確な診断と治療を提供しております。最新の技術を活用し、低侵襲な治療を心がけています。ご相談や診療をご希望の方は、お気軽に当院までお問い合わせください。
末梢神経拘扼障害
手根管症候群は、手根部にある「手根管」と呼ばれるトンネル内で、正中神経が圧迫されることによって発生する疾患です。特に、手のしびれや痛み、指の動かしにくさといった症状が現れることが特徴です。
Fig.16 手根管症候群:手根管開放術
手根管症候群の主な原因には以下のものがあります:
- 手の使いすぎ(パソコン作業、家事、楽器演奏など)
- ホルモンバランスの変化(妊娠・更年期など)
- 糖尿病や関節リウマチなどの基礎疾患
- 透析患者
- 手首の骨折や変形による手根管の狭窄
手根管症候群の症状は徐々に進行し、放置すると悪化することがあります。主な症状は以下の通りです:
- 親指、人差し指、中指のしびれや痛み(特に夜間に悪化しやすい)
- 親指の付け根の筋肉の萎縮(進行すると物をつまみにくくなる)
- 手のこわばりや感覚鈍麻(指先の感覚が鈍くなる)
- 問診・診察:
- しびれの範囲(正中神経領域)や症状の経過を詳しく確認します。
- ティネル徴候:
- 手根部をを軽く叩くと、手指にしびれ、痛みが放散する。
- ファーレンテスト
- 手首を曲げてしびれが悪化するかを評価します。
- 環指徴候
- 環指内側・外側でのしびれ境界を確認する
- 神経伝導検査
- 正中神経の伝導速度を測定し、障害の有無を確認します。
- 超音波検査・MRI
- 神経や周囲の組織の状態を詳しく調べます。
保存療法(軽症~中等症)
- 薬物療法:
- 消炎鎮痛剤やビタミンB12製剤を使用します。
- 胎児外科手術:
- 出生前に子宮内で手術を行うことで、脊髄へのダメージを軽減し、神経機能を改善する試みが進められています。
- 手根管開放術:
- 手根管を覆う靭帯(屈筋支帯)を切開し、正中神経への圧迫を解除します。
局所麻酔での20分程度の手術です。
聖マリアンナ医科大学 脳神経外科では、脊髄外科指導医・専門医による的確な診断と治療を提供しております。最新の神経モニタリング技術を活用し、低侵襲な治療を心がけています。手根管症候群に関するご相談や診療をご希望の方は、お気軽に当院までお問い合わせください。
胸郭出口症候群
胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)は、首から肩、腕にかけての神経や血管が圧迫されることで、しびれや痛み、腕のだるさが生じる疾患です。
Fig.17 胸郭出口症候群:腕神経叢が圧迫される病態
手術として斜角筋離断や第一肋骨切除が行われる
胸郭出口とは、首の付け根から鎖骨の下にかけてのエリアで、ここを通る神経(腕神経叢)や血管(鎖骨下動脈・静脈)が圧迫されることで症状が発生します。主な原因として、以下のような要因が挙げられます:
- なで肩や筋肉のバランスの崩れ(特に女性に多い)
- 鎖骨や肋骨の位置異常(先天的な頸肋〈けいろく〉など)
- 筋肉の過緊張(斜角筋や小胸筋の硬直)
- 長時間の不良姿勢(デスクワーク、スマートフォン使用など)
- 神経型(腕神経叢の圧迫)
- 首から肩、腕にかけてのしびれや痛み
- 腕を挙げた際のしびれ・脱力感(手を上げると症状が悪化)
- 握力低下や指の動かしにくさ
- 肩こりの悪化
- 血管型(鎖骨下動脈・静脈の圧迫)
- 腕の冷感や蒼白(血流不足)
- 腕のだるさや重さ
- 手や指の腫れ(静脈圧迫によるうっ血)
- 問診・理学所見
- 腕の上げ下げによる症状の変化を確認
- ルーステスト
- 両腕を挙げて手を開閉し、症状の出現をチェック
- モーリーテスト
- 斜角筋を圧迫して、症状の有無をみます
- ライトテスト
- 上腕を挙上し過伸展させて、症状の有無をみます
- エデンテスト
- 両腕を後ろ下に牽引し、鎖骨と肋骨の間を狭くさせて、症状の有無をみます
- 神経伝導検査
- 神経の伝導異常を確認
- 血管エコー
- MRI検査:血流の異常や筋肉・骨の圧迫を詳しく検査
保存療法(軽症~中等症)
- 姿勢改善・ストレッチ:
- 猫背やなで肩を改善し、筋肉の柔軟性を向上
- 薬物療法:
- 神経症状を抑えるビタミンB12製剤や消炎鎮痛剤の使用
- 斜角筋ブロック注射:
- 痛みが強い場合、神経ブロックで症状を緩和 診断的治療にもなります
- 斜角筋切除術
- 神経を圧迫している筋肉を部分的に切除 (Fig.17)
- 頸肋(けいろく)切除術
- 先天的な余分な肋骨を切除 (Fig.17)
- 鎖骨下動脈・静脈の減圧術
- 血管への圧迫を軽減
聖マリアンナ医科大学 脳神経外科では、脊髄外科指導医・専門医による的確な診断と治療を提供しております。最新の神経モニタリング技術を活用し、低侵襲な治療を心がけています。胸郭出口症候群に関するご相談や診療をご希望の方は、お気軽に当院までお問い合わせください。