下垂体及び下垂体近傍腫瘍
(神経内視鏡手術)
下垂体は、脳からぶら下がるように存在する1cm程度の器官で、ホルモンを分泌しています。成長ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、抗利尿ホルモン、オキシトシンなど分泌し、視床下部や標的器官と共に生体機能を維持しています。
下垂体腺腫
下垂体に発生する代表的な腫瘍で、脳腫瘍の中では3番目の頻度になります。下垂体前葉の細胞から発生する良性腫瘍です。
症状は2種類あり、一つはホルモン過多による症状、もう一つは圧迫によるホルモン分泌低下と視神経や眼球を動かす神経の障害です。
ホルモン分泌が過剰になる疾患には成長ホルモン産生腺腫(巨人症、先端巨大症)や副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫(クッシング病)などあり、手術を要します。ホルモン分泌低下があればホルモン補充療法を行います。腫瘍が視神経に影響を及ぼし耳側半盲(外側の視野が欠ける)が出現したり、眼球運動障害による複視(二重に見える)など出現すればホルモン分泌過剰がなくとも手術を必要とします。プロラクチン産生腺腫はカベルゴリンなどの薬物療法が第一選択です。しかし、挙児希望女性で小型の腫瘍であれば完全切除で薬物療法を不要にすることもあります。脳ドックなどで偶発的に発見された場合は、視神経を挙上していれば手術が勧められます。小型で無症状の場合は定期的な経過観察となります。
下垂体腺腫に対する外科治療では、従来上口唇下粘膜を切開して鼻腔に到達する方法が用いられましたが、現在は鼻腔内粘膜を一部切開して病変に到達する経鼻法が主流です。さらに以前は顕微鏡を用いておりましたが、より侵襲の少ない内視鏡で行われつつあります。当院でも最先端のハイビジョン内視鏡や内視鏡固定具、ナビゲーションなどを駆使して下垂体機能を温存しつつ、最大限の病変摘出を目指しております。腫瘍の性状によっては開頭術が必要な場合もありますが、豊富な経験に基づき症例に応じて適切で安全な方法を選択しています。
下垂体腺腫・内視鏡下摘出術
頭蓋咽頭腫
全摘出で完治することもありますが、重要構造の多い脳深部にあるため極力合併症の出現を押さえつつ最大限の摘出を目指します。良性腫瘍であるにもかかわらず残存した場合には短期間に再増大することが多く、治療の難しい腫瘍のひとつです。術後定位放射線療法や、視床下部、下垂体に対するホルモン補充を行うなど専門的な治療マネージメントを必要とします。
頭蓋咽頭腫
ラトケ囊胞
腫瘍とはやや趣が異なりますが、発生段階で遺残した囊胞(液体の入った袋)が大きくなり、正常下垂体や視神経への圧迫や、炎症を生じホルモン分泌障害を来すことがあります。頭痛や視機能障害を来している場合には手術を行います。ほとんどの症例で内視鏡で囊胞を開放し内溶液の排除と洗浄を行うことで症状が改善します。
ラトケ囊胞の手術
妊娠末期の女性で、視力視野障害を認め、MRIではトルコ鞍部に2cmの病変を認めます(図1)。早期摘出術を勧められ来院されました。
妊娠末期の下垂体腫大で、リンパ球性下垂体炎と診断しました。ステロイド治療で直後より視力視野障害は改善し、無事出産されました。
図1
20代女性で月経不順と乳汁分泌を認め、PRL60ng/mlでした。他院でプロラクチン産生腺腫の診断でカベルゴリン(前述)を処方されました。MRIを(図2)に示します。
内分泌検査を行うと原発性甲状腺機能低下症あり、甲状腺ホルモン剤の内服で症状は改善しました。
これらの症例のように、下垂体には腫瘍のみが発生するわけではなく、また内分泌器官であるために脳神経のみらならずホルモンの幅広い知識を有していることが重要で、治療の成否を分けることになります。
下垂体専門外来を設けております。お気軽にご相談下さい。
図2