診療案内

神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫とは

脳を構成する細胞(神経細胞,星細胞,乏突起細胞など)のうち,神経細胞以外の細胞を起源とする腫瘍のことを総称して神経膠腫といいます.日本人の脳腫瘍では髄膜腫に次いで多い腫瘍です。細かく分類されていて,それぞれ生物学的性質が異なり、良性から悪性(Grade1-4)まで存在します。神経膠腫のうち最も組織学的に悪性なものが、神経膠芽腫です。

星細胞腫系 乏突起膠腫系 混合性腫瘍
グレード1 毛様状
星細胞腫
グレード2 びまん性
星細胞腫
乏突起膠腫 乏突起
星細胞腫
グレード3 退形成性
星細胞腫
退形成性
乏突起膠腫
退形成性
乏突起
星細胞腫
グレード4 膠芽腫

症状は、脳の局所症状(麻痺、感覚障害、失語、視野障害など)がみられることがあります。一方、痙攣発作や頭痛、吐き気などの頭蓋内圧亢進症状で発症することもあります。診断はCT,MRI,MRS,トラクトグラフィー,脳血管撮影,核医学検査といった画像診断が用いられます。多くはこれらの画像診断である程度の質的診断までできます。しかし、最終診断は病理診断が必要となります。これは手術で摘出した腫瘍から、顕微鏡標本を作成して病理学的に判定をします。性質を正しく知るために、免疫組織染色や遺伝子診断といった手法も用い、診断には2週間かかります。治療に関しては、外科的手術(腫瘍摘出)と後療法(放射線と化学療法)です。以下、各種治療法について説明します。

参考)神経膠芽腫の1例

手術

全身麻酔下に頭皮を切開し、開頭をします。硬膜を切開し、脳表を露出した上で、腫瘍を摘出します。このとき注意しなければならないことは、脳の機能脱落を最小限に留め、最大限に腫瘍を摘出することです。脳外科以外の腫瘍摘出では腫瘍細胞の存在しない安全域を含めた拡大切除を行います。ところが、脳外科では、拡大切除は新たに機能喪失を来たし、日常生活の質(Quality of Life:QOL)が下がります。神経膠腫は、発見された時しばしば、運動野、感覚野、視覚野、言語野など機能的に重要な部位(eloquent area)を侵しています。画像診断では浮腫と区別できない部位に腫瘍細胞が混じっています。このような場合、全摘出を試みるとeloquent areaを侵し、麻痺、感覚障害、視野障害、言語障害を来たす恐れがあります。このように、脳腫瘍の手術では低侵襲で最大限の摘出を要するため、手術支援装置や脳波モニタリングなどマルチモダリティを駆使した戦略が必要です。(①−⑤)

①5-ALA

手術当日の朝に5アミノレブリン酸(5-ALA)というお薬を内服していただきます。お薬は多少の酸味がありますが、体には無害です。悪性神経膠腫の部分では特異的にプロトポルフィリンへ代謝蓄積され、強い光増感作用が生じます。術野で400nm波長の光を照射すると、赤く腫瘍が浮き上がり、腫瘍の残存を防ぐことができます。

②ギリアデル

脳は血液脳関門(BBB)と呼ぼれる、血液と脳の物質交換を制限する機構があり、有害物質から神経細胞を守るバリアーになっています。しかし、BBBがあるため抗癌剤などの薬剤が到達しにくく、悪性神経膠腫の治療成績が不良となります。ギリアデルは白金製剤であるBCNU(カルムスチン)を含み、腫瘍の摘出腔に留置することで、直接脳組織内へ浸透し抗腫瘍効果を発揮します。

③ニューロナビゲーション

手術中にカーナビのごとく、腫瘍や周囲の重要構造を三次元的に捉える装置です。あらかじめCTやMRIのデータを取り込んでおき、手術時に患者の顔面をスキャンすることで、手術中リアルタイムに立体的位置を把握することが出来ます。ニューロナビゲーションを用いることで腫瘍辺縁からの距離や重要構造との位置関係を評価することができます。これを用いると手術の安全性と摘出率が向上します。

④電気生理学的モニタリング

運動誘発電位 (MEP)、感覚誘発電位 (SEP)、視覚誘発電位 (VEP)などが挙げられますが、手術中に運動野、感覚野、視覚野を刺激しモニタリングすることで、各々の機能に障害が出ていないかを確認し、神経機能の温存に役立てています。また、直接脳表や摘出面を電気刺激し、機能を損なわない程度に最大限の摘出を行えるよう努めています。

⑤覚醒下手術

右利きの人の99%は左大脳半球に言語中枢が存在します(優位半球)。左の前頭葉に運動性言語野、側頭葉に感覚性言語野があり、障害されると、言葉を発することができない、理解できないなどの失語が出現します。これらの言語機能を温存するために、覚醒下に言語機能を評価しながら、摘出を行う手術です。開頭で、脳表を露出した時点で麻酔から醒まし、脳表の電気刺激を行いながら、言語野を把握し摘出可能な境界を得ています。

※当院は覚醒下手術認定施設です。

ゲノム診断

当院はがんゲノム医療拠点病院に指定されており、ゲノム医療推進センターを開設しています。摘出した脳腫瘍の検体を使って多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査(包括的ゲノムプロファイリング検査)」によって、脳腫瘍患者さん一人一人の遺伝子の変化を解析し、腫瘍の性質を明らかにすることや、遺伝子異常に基づいた治療を行っています。

後療法

神経膠腫のうちGrade3-4の悪性神経膠腫に関しては、腫瘍を全摘出しても、放射線治療と化学療法が必要になります。また、Grade2の腫瘍においても残存腫瘍がある場合には、放射線治療や化学療法を要することがあります。(①−④)

① 放射線治療

画像上、腫瘍を全摘出したとしても、周囲の脳組織には腫瘍細胞が染み込む様に浸潤しています。これらの腫瘍細胞の発育を制御するために、悪性神経膠腫では、拡大局所照射を行います。1回2 Gy(グレイ)を30回、6週間かけて、計60 Gy (60Gy/30回)照射します。当院では強度変調放射線治療(IMRT)で、病巣に線量を集中させ、正常脳組織への線量を軽減させ、副作用を抑えることが出来ます。
放射線治療医と相談し、個々の症例に応じた最善の治療を実施します。
※70歳以上の高齢者に対しては副作用軽減のため、40Gy/15回 (3週間)に減量して行っています。

②テモゾロミド (Temozolomide)

アルキル系抗腫瘍薬で、悪性神経膠腫の治療の第一選択薬です。内服できる製剤で、通院で治療を継続できます。一般的には2通りの方法で内服します。1つ目は、導入療法と言い、上述した放射線治療中に連日(42日間:6週間)体表面積あたり75mg内服していただきます。2つ目は、維持療法と言い、28日を1クールとし、5日間体表面積あたり150-200mg内服していただきます。
テモダールの内服の注意点としては、空腹時に飲まなければなりません。また、副作用として骨髄抑制(貧血、白血球/血小板の減少)、悪心・嘔吐、便秘、倦怠感、頭痛などあります。これらの副作用を減らすため、吐き気止め(制吐剤)や便秘薬(緩下剤)、抗生剤を予防投与することがあります。
投与期間に関しては、個々の症例に応じて検討します。

③アバスチン (Bevacizumab)

VEGF(vascular endothelial growth factor)という、血管内皮細胞増殖因子の働きを抑える抗体で、分子標的薬の一種です。腫瘍はVEGFを産生し、周囲に血管を新生することで、発育します。アバスチンは、血管の新生を抑制することで抗腫瘍効果を発揮します。投与方法は点滴のみですが、2週間毎に体重1kgあたり10mg投与します。時間は30分程度であり、外来でも施行可能です。副作用には、高血圧、蛋白尿、血栓症、脳出血、創傷治癒遅延などがあります。

④脳腫瘍治療電場療法

脳腫瘍治療電場療法(製品名:オプチューン)は膠芽腫に対する新しい治療法として開発されたものです。この治療は脳内に特殊な電場を発生させて腫瘍増殖を抑制する治療方法です。初回手術後に膠芽腫と診断されて、初期治療の放射線療法、それと併用して行われる化学療法 (テモゾロミド)を終了した膠芽腫の患者様に維持療法として使用される治療機器です。
オプチューンは、電場を作り出す粘着性シートに取り付けられたセラミック製ディスクが9個搭載された電極パッド(アレイ)を、頭髪をきれいに剃った頭部に4枚貼り付けることで脳内に治療電場を作り出し、急速に増殖を繰り返す膠芽腫の細胞分裂を阻害することで、腫瘍細胞を抑えるように作用します。アレイは週に2〜3回交換します。一人でアレイを貼り替えるのは難しいので、治療協力者の補助が必要です。バッテリーで作動する携帯タイプの医療機器で、日常生活を損なうことなく昼夜を問わず継続して長時間使用することができるように設計されています。可能な限りの継続的治療が推奨されるため、頭皮の副作用(皮膚の炎症)を避けて、できるだけ継続して(1日16時間以上、装着率75%以上)治療を続けることが大切です。

※当院は脳腫瘍治療電場療法治療可能施設です。 ※ノボキュア社 HPより

妊孕性(妊孕能)の温存

妊孕性(妊孕能)とは、医学的には“妊娠する能力”、又は“生殖能力”のことであり、代表的な妊孕能療法は胚(受精卵)凍結、未受精卵子凍結、卵巣組織凍結、精子凍結(精巣内精子凍結を含む)になります。上記後療法により妊孕性が損なわれてしまうこともあり、AYA世代の患者には、がん・生殖外来と併診し、妊孕性の温存にも努めています。

社会的支援

治療の過程の中で、腫瘍の増大により脳局在症状(麻痺や失語など)が出現しQOLが低下する場合があります。そのような場合でも在宅で加療の継続が出来るよう、介護保険の申請をしたり、医療費負担の軽減へ向けた高額医療費の申請など支援をする窓口(MSC)があります。

今回は、神経膠腫について述べましたが、その他の小児脳腫瘍を含めた、あらゆる脳腫瘍の集学的な治療を行なっています。
何かご不明な点があれば、セカンドオピニオンも含め、脳腫瘍外来(金曜日:午後)を受診して下さい。

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